立命館大学が9年ぶり11度目の女王に返り咲く形で幕を閉じた、
10/27(日)の「全日本大学女子駅伝」。
今回は、2区のラップタイム検証を行なっていく。
※当記事で使用するラップタイムのデータは、推定値を含みます。必ずしも正確ではないことをご了承ください。
【2区】
最短2区を “救世主” に賭けた名城
2024年度、名城大学のチーム事情は決して万全ではなかった。
そのひとつとして挙げられるのが、前回の優勝メンバーである二年生・薮谷奈瑠の調子が上がらず、10名のエントリーメンバーに登録することができなかった点だ。
そのピンチに彗星の如く現れたのが、今回2区に抜擢された
三年生の上野寧々(うえの ねね)であった。
女子駅伝部のSNSアカウントをチェックしているファンにはお馴染みだが、ほとんどの人には初めて見る名前だろう。
実は、これまでメンバー争いの圏外にいた選手。
↓米田監督から入部を「遠回しにお断り」されていたという一般入試組の上野。三年目の夏に急成長を遂げ、選考レースで「6人目」に滑り込んだ。
上野にとっては、もちろん今回が大学駅伝デビュー戦。それどころか、全国規模の大会も初めてだという。
名城大学の米田監督もヒヤヒヤしながら見守っていたようだが、2区は4.0kmと短い分、万が一失敗してもそこまで大きなタイム差にはならない。2区ならばチャレンジングな起用が可能ではある。
女王の “急所” を突いた立命館の奇襲
その一方で、残酷ではあるが、
「名城にどうやって勝つか」という視点に立った場合には、
急造6番手が走る今回の名城の2区は「急所」とも捉えられる。
逆襲に燃える立命館大学は、そこを逃さなかった。
1年生・山本釉未(やまもと ゆうみ)の2区起用は、今年の名城大学にとって最も痛い所を突くオーダーであっただろう。
山本は、最初の1キロを男子選手並みの2分54秒で突っ込み、区間記録を14秒更新する爆走を見せた。
結果的に大成功となった立命館の2区山本起用であるが、実はセオリーからは外れている。
山本は元々、去年の全国高校駅伝1区でもレースを支配していたようなスーパールーキーだ。大学でもまずは、そのまま1区でデビュー戦を迎えることが予想できた。
そんな大物を最短2区4.0kmで起用してしまうのは「もったいない」という見方が自然だ。
しかし実は、ここに駅伝の【区間配置の妙】が現れている。
駅伝では、似た走力の選手が同区間でぶつかれば、相乗効果で好記録が生まれやすい。言い換えれば、差がつかない。
逆に、明らかに走力が異なる選手同士のマッチアップでは、実力差以上のタイム差が生じることがある。つまり、離す側は勢いづき、離される側は責任や焦りで硬くなり、最悪の場合「ショック」でレース中に体調不良を引き起こすケースすらある。
この法則について、筆者が思い出すのは、大学男子の2019年の箱根駅伝。
東洋大学は、当時まだそこまで重視されていなかった4区に、良い意味で “場違い感” のある相澤晃を起用した。のちに10000mで日本記録を樹立、オリンピック代表の座も手にすることになる大物である。
相澤は、青山学院大学の選手をわずか2キロで抜き去りトップに立つと、最終的に三分半もの大差をつけた。
相澤が実力で優っていたのは確かだが、青学の選手も当時有望視されていた二年生であった。両者の実力が実際に三分半も離れていたかと言われると、大袈裟すぎるように思う。
近い実力ならば相手のペースを借りてついていくことも可能だが、それもできず。特に後半は明らかにパワーを失い、順位を次々に落としてしまった。やはり、離された側は精神的なショックが大きいのだろう。
(ちなみに青学のその選手は翌年8区に回り好走している)
今回であれば、
1区山本 (1区の経験豊富)
2区太田 (前回2区区間賞)
という逆の順番のほうが、並びとして無難ではあった。
※二人はともに附属の立命館宇治高校出身で、2022年の全国高校駅伝では、実際に1区山本(高2)→2区太田(高3)という並びが採られている。
しかし、仮にそうした場合、
(今回の米澤の不調は想定外としても)
1区山本(15:37)vs米澤(15:31)で互角に渡り合い、
2区太田(15:47)vs上野(16:15)でいくらかのリードを得るにとどまっただろう。
それならば、1区は太田が米澤の力を借りてついていき、2区で圧倒的な差のあるマッチアップを用意するほうが、作戦成功時のリターン——得られるタイム差が大きくなるわけだ。
反対に、名城大学としては、山本とちょうど対になり得た同じくスーパールーキーの近藤希美を起用できなかったことも悔やまれる。
苦労人・上野のデビュー戦は苦い経験?
結論から述べると、そこまで悲観する結果ではない。
特に途中までは善戦していた様子がラップタイムにも表れている。惜しいのは、ラスト1キロだけだ。
2区のコースは、1キロまでがフラット、2キロ3キロが登りで、ちょうどタスキを外し始めるラスト600メートルあたりからが下りとなる。
上野が二週間前(10/13)のメンバー選考レースで記録した5000mの自己ベスト16分15秒を考えると、単純計算で13分00秒。上りで1キロあたり5秒加算するとして13分10〜20秒。あの予想外の展開ながら、今の実力はそこそこ出せていたという見方はできる。
途中アナウンサーから「この1キロは3分30秒かかっています」という緊迫した様子のリポートがあったが、コース特性と前年のラップを把握していればそこまで驚きはない。
どちらかと言えば、3キロまでは、昨年区間2位だったチームメイトの力丸と9秒しか変わらないペースで健闘していた点をたたえたい。2区全体の結果平均タイムは、去年より3〜4秒速い程度であり、比較材料としてよいはずだ。
それだけに、下り込みのラスト1キロで3分24秒を要したのは惜しかった。予想外の順位から来る焦りと緊張から、最後まで力を残しておく余裕がなかったせいかもしれない。
しかしそれでも、伸びてきた選手の「旬」を見逃さず起用した米田監督の英断は、指導者としてのあるべき姿であろう。
駅伝ファンとしても、一般入試組から名城大学の駅伝メンバーに食い込んだという上野の躍進は、応援したくなるし、多くの人に勇気を与えたはずだ。
今回の結果に対して「やっぱりかなわないか」などと気落ちする必要は全くない。むしろ、名城大学の貴重な”1枠”を使って得た経験を、ぜひ次戦の富士山女子駅伝以降に活かすべきだ。
https://www.tokyo-sports.co.jp/articles/-/321607
【全日本大学女子駅伝】名城大2区は一般入試組の上野寧々 米田監督「入部は何度も遠回しにお断りをしたが…」 | 東スポWEB
まとめ
次回は、3区を取り上げていく予定。