10/27(日)、「全日本大学女子駅伝」が杜の都・仙台で行われた。
長年女王の座を守り続けてきた名城大学の連勝記録がついにストップ。
立命館大学が9年ぶり11度目の女王に返り咲く形で幕を閉じた。
連勝記録を支えてきた名城大学のキャプテン・谷本七星は、自身のSNSで心境を綴った。
「悔しい」という自身の大切な感情を後回しにしなければならないほど、【向かい合わなければいけない物】に追われている。
レース直後、心身ともに疲弊しているはずの彼女から捻り出された毅然としたコメントが、常勝チームのキャプテンという立場の険しさと葛藤を物語っている。
今回のブログ記事では、データ分析よりもまず先に、
特に伝えたいメッセージを手前に持ってくることにしよう。
名城大学が頂点として君臨した7年間の歴代キャプテンと比較して、今年の谷本キャプテンだけが何か足りなかった、というふうには決して見てほしくない。
もちろん本人にも、そして世間にも。
四年間で選手が入れ替わる学生スポーツにおいて勝ち続けることの難しさはメディアでも散々耳にしていることだろう。
そもそも全日本大学女子駅伝という大会は、コース変更が頻繁に行われており、戦略も7年前の優勝から微妙に変化し続けている。
7つの「優勝」に、一つとして同じものはなかった。
それは、今回彼女たちが目指してきた “8つ目の優勝” も例外ではない。
名城大学が連覇の数字を重ねていくにつれ、他の大学は「これでも勝てないのか…」という落胆を募らせるとともに、目の色を変えていった。「来年に繋がる走り」を合言葉に、複数年計画で毎年着々と力をつけ、並々ならぬ覚悟で挑んでくる。
そこに立ち向かわなければならない、試練の巡り合わせとなったのが、谷本キャプテンであり、今年のメンバーだったというだけだ。
次戦となる12月の富士山女子駅伝では、常に優勝しか許されなかったような重圧から解き放たれた上で、
彼女たち自身の色を取り戻した走りに期待したい。
これらを踏まえた上で、
名城vs立命館の戦力構図に何が起きていたのかを、ラップタイム検証を織り交ぜつつ分析していく。
【1区】
大学男子駅伝のほうが見慣れているという人は、同じ全6区間で総距離も似ている出雲駅伝に置き換えると取っ付きやすいかもしれない。
大まかに3区と5区の重要度が入れ替わったようなコースウェイトだと捉えると、レースの全体像がイメージできそうか。
共通点を浮き上がらせるためにそれぞれキャッチフレーズのようなものを付けたが、当然オフィシャルなものではないのであしからず。
↓
全日本大学女子駅伝——男子の出雲駅伝
・1区 6.6km——勢いの1区8.0km
・2区 4.0km——最短の2区5.8km
・3区 5.8km——信頼の5区6.4km
・4区 4.8km——登りの4区6.2km
・5区 9.2km——エース3区8.5km
・6区 7.6km——起伏の6区10.2km
新傾向の1区
昨年のコース変更により、これまで「前半の勝負区間」とされていた3区が短縮され、相対的に1区の重要度がアップした。
初年度となった前回では、まだまだ各校とも様子見の傾向が強く、15位までの差が約1分、25位まで見ても約1分40秒と、意外に僅差であった。
ところが、今年の1区は様相が一変した。15位までの差は約1分20秒、25位までは約3分と大差がつく結果に。
それもそのはず、名城大学を除くほとんどの有力校が、昨年とは異なる人選で挑んできたのである。
たとえば、城西大学や中央大学は高校時代から実績のあるルーキーを抜擢。
さらに、立命館や大東文化、東北福祉は、昨年ルーキーとして他の区間で活躍した売り出し中の二年生選手を満を持してトップバッターに据えた。
大阪学院や順天堂に至っては、本来なら5区を任されるエースをあえて1区に持ってきた。
かくして、主力選手がずらりと並んだ今年の1区は、前年とは異なる展開を見せることとなる。
女王の時計を狂わせた大阪学院大学・永長の存在感
最初の1キロは、去年とほぼ同じ3分13秒。
その後、例年ならば2〜3キロでペースが落ち着くところだが、今年はその「息継ぎ」を許さなかった存在がいた。
大阪学院大学の4年生・永長里緒 (えいなが りお)である。
1年生から三年連続でエース区間5区9.2kmを任されてきた彼女が、最終学年の今年はスターターとして有力校に揺さぶりをかけてきたのだ。
大阪学院大学は、黄色のウェアと青のハーフパンツが目印。女子マラソン金メダルの高橋尚子選手の母校としても名高い。
毎年、将来の日本代表候補クラスの選手が一人は在籍しているこのチームは、優勝争いでは「あと一歩、二歩」の位置に甘んじることが多いものの、8位以内のシード権は確実に射止める実力校である。
もしかすると今回のオーダーは、シード権確保のために、ハイペースで9位以下のチームを分断する戦略だったのかもしれない。
駅伝においてシンプルながら強力な「先手必勝作戦」が、女王・名城大学のリズムを徐々に狂わせていく。
2~3キロのラップは3分8秒。永長は陸橋のアップダウンを利用して加速し、集団に休む隙を与えなかった。
※当記事で使用するラップタイムのデータは、推定値を含みます。必ずしも正確ではないことをご了承ください。
依然として続くハイペースにより縦長となった先頭集団は、3.4km地点で8人にまで絞られた。
1列目
・永長 里緒 (4年 大阪学院大学)
・野田 真理耶 (2年 大東文化大学)
・太田 咲雪 (2年 立命館大学)
2列目
・米澤 奈々香 (3年 名城大学)
・本澤 美桜 (1年 城西大学)
3列目
・小暮 真緒 (4年 順天堂大学)
・佐々木 菜月 (2年 東北福祉大学)
・武田 胡春 (1年 中央大学)
波乱の中盤〜ラストスパート
CMの間に、1区は4.3kmまで進んでいた。
そこで、目を疑うような光景が飛び込んでくる。
過去二年間で1区1位、1区2位と、圧倒的な安定感を誇っていた名城大学・米澤が、先頭集団からちぎれ、7番手にまで後退していたのだ。
仕掛けたのは、「打倒名城」に燃える立命館大学の二年生、
太田咲雪(おおた さゆき)である。
太田はその後も猛攻を続ける。気がつけば、東北福祉・城西・順天堂らのランナーも、5.5kmのカーブに差し掛かる頃には画面からフェードアウトしていた。
これにより、先頭集団は立命館・太田、大東文化・野田、大阪学院・永長の三名にまで絞られた。
このうち太田と野田はまだ二年生で、共に高校時代から活躍してきた選手ではあるが、大学でチームの命運を握るような主要区間を任されたのはこれが初めてであった。
もしこの二人だけなら、名城・米澤も差を最小限に食い止めることができたかもしれない。
しかし、今年の1区には永長がいた。
経験・実力ともに申し分ない四年生の彼女が横につき、打倒名城の立命館・大東文化の二人を前方へと引き連れていったことが、結果として名城に大きな痛手を与える形となった。
米澤苦戦の予兆、3分8秒の毒牙
実は、名城・米澤奈々香には不安材料があった。今年6月、右足底部の痛みにより戦線離脱していた時期があったのだ。
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本来ひと息入れたかった2〜3キロをスキップされ、手負いのエース米澤にはボディーブローのようにダメージが蓄積していた。
4km過ぎのペースアップ以降、先頭との差は5kmで7秒、6kmで31秒、中継所に辿り着く頃には40秒以上にまで広がってしまっていた。
これまでほぼ敵なしで、終始主導権を握ることができた前年までの1区とは明らかに異なる展開に、本人も名城大学陣営もその動揺が隠しきれなかったことだろう。
5〜6キロは3分05秒までペースアップし、白熱した1区の争いを制したのは、大東文化大学・野田真理耶だった。
しかも上位三名は、前回区間賞の立命館大学・村松灯が持っていた「21分21秒」を上回る区間新記録。
北九州市立高校二年時に出場した全国高校駅伝(都大路)1区で、当時一学年上で仙台育英のエースを担っていた米澤に独走を許した野田にとっては、今回は三年越しのリベンジを果たしたとも言えるだろうか。
いや、お互いが万全の状態で、再び相まみえるチャンスを待っているかもしれない。
急なペースダウンが非常に心配だったが、現在は脱水気味だった状態から回復しているという。↓
まとめ
次回は、2区を取り上げていく予定。